なる母衣《ほろ》の上に書いたるにて、片端には彫刻したる獅子《しし》の頭《かしら》を縫《ぬ》ひつけ、片端には糸を束《つか》ねてふつさりと揃へたるを結び着け候。この尾と、その頭と、及び件《くだん》の牡丹の花描いたる母衣とを以て一頭の獅子にあひなり候。胴中には青竹を破《わ》りて曲げて環にしたるを幾処《いくところ》にか入れて、竹の両はしには屈竟《くっきょう》の壮佼《わかもの》ゐて、支へて、膨《ふく》らかに幌《ほろ》をあげをり候。頭《かしら》に一人の手して、力|逞《たく》ましきが猪首《いくび》にかかげ持ちて、朱盆の如き口を張り、またふさぎなどして威を示し候|都度《つど》、仕掛を以てカツカツと金色《こんじき》の牙《きば》の鳴るが聞え候。尾のつけもとは、ここにも竹の棹《さお》つけて支へながら、人の軒より高く突上げ、鷹揚《おうよう》に右左に振り動かし申候。何貫目やらむ尾にせる糸をば、真紅の色に染《そ》めたれば、紅の細き滝支ふる雲なき中空より逆《さかさ》におちて風に揺《ゆ》らるる趣《おもむき》見え、要するに空間に描きたる獣王の、花々しき牡丹の花衣《はなぎぬ》着けながら躍《おど》り狂ふにことならず、目覚し
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