《ちっこ》い奴だな。」
「それよ、海から己《おれ》たちをつけて来たものではなさそうだ。出た処《とこ》勝負に石段の上に立ちおったで。」
「己《おら》は、魚《さかな》の腸《はらわた》から抜出した怨霊《おんりょう》ではねえかと思う。」
と掴《つか》みかけた大魚|腮《えら》から、わが声に驚いたように手を退《の》けて言った。
「何しろ、水ものには違えねえだ。野山の狐|鼬《いたち》なら、面《つら》が白いか、黄色ずら。青蛙のような色で、疣々《えぼえぼ》が立って、はあ、嘴《くちばし》が尖《とが》って、もずくのように毛が下った。」
「そうだ、そうだ。それでやっと思いつけた。絵に描《か》いた河童《かっぱ》そっくりだ。」
と、なぜか急に勢《いきおい》づいた。
絵そら事と俗には言う、が、絵はそら事でない事を、読者は、刻下に理解さるるであろう、と思う。
「畜生。今ごろは風説《うわさ》にも聞かねえが、こんな処さ出おるかなあ。――浜方へ飛ばねえでよかった。――漁場へ遁《に》げりゃ、それ、なかまへ饒舌《しゃべ》る。加勢と来るだ。」
「それだ。」
「村の方へ走ったで、留守は、女子供だ。相談ぶつでもねえで、すぐ引返
前へ
次へ
全43ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング