ら覗いて、
「無慙《むざん》や、そのざまよ。」
と云った、眼《まなこ》がピカピカと光って、
「われも世を呪《のろ》えや。」
と、首を振ると、耳まで被《かぶ》さった毛が、ぶるぶると動いて……腥《なまぐさ》い。
しばらくすると、薄墨をもう一刷《ひとはけ》した、水田《みずた》の際を、おっかな吃驚《びっくり》、といった形で、漁夫《りょうし》らが屈腰《かがみごし》に引返した。手ぶらで、その手つきは、大石投魚を取返しそうな構えでない。鰌《どじょう》が居たら押《おさ》えたそうに見える。丸太ぐるみ、どか落しで遁《に》げた、たった今。……いや、遁げたの候の。……あか褌《ふんどし》にも恥じよかし。
「大《でっ》かい魚《さかな》ア石地蔵様に化けてはいねえか。」
と、石投魚はそのまま石投魚で野倒《のた》れているのを、見定めながらそう云った。
一人は石段を密《そっ》と見上げて、
「何《あに》も居ねえぞ。」
「おお、居ねえ、居めえよ、お前《めえ》。一つ劫《おど》かしておいて消えたずら。いつまでも顕《あら》われていそうな奴じゃあねえだ。」
「いまも言うた事だがや、この魚《うお》を狙《ねら》ったにしては、小
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