「やあ、」
 しっ、しっ、しっ。
 この血だらけの魚の現世《うつしよ》の状《さま》に似ず、梅雨の日暮の森に掛《かか》って、青瑪瑙《あおめのう》を畳んで高い、石段下を、横に、漁夫《りょうし》と魚で一列になった。
 すぐここには見えない、木の鳥居は、海から吹抜けの風を厭《いと》ってか、窪地でたちまち氾濫《あふ》れるらしい水場のせいか、一条《ひとすじ》やや広い畝《あぜ》を隔てた、町の裏通りを――横に通った、正面と、撞木《しゅもく》に打着《ぶつか》った真中《まんなか》に立っている。
 御柱《みはしら》を低く覗《のぞ》いて、映画か、芝居のまねきの旗の、手拭《てぬぐい》の汚れたように、渋茶と、藍《あい》と、あわれ鰒《あわび》、小松魚《こがつお》ほどの元気もなく、棹《さお》によれよれに見えるのも、もの寂しい。
 前へ立った漁夫《りょうし》の肩が、石段を一歩出て、後《うしろ》のが脚を上げ、真中《まんなか》の大魚の鰓《あご》が、端を攀《よ》じっているその変な小男の、段の高さとおなじ処へ、生々《なまなま》と出て、横面《よこづら》を鰭《ひれ》の血で縫おうとした。
 その時、小男が伸上るように、丸太棒の上か
前へ 次へ
全43ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング