で、何だか九字でも切るような様子をしたじゃアありませんか。思出すわ。……鋤鍬《すきくわ》じゃなかったんですもの。あの、持ってたもの撞木《しゅもく》じゃありません? 悚然《ぞっ》とする。あれが魔法で、私たちは、誘い込まれたんじゃないんでしょうかね。」
「大丈夫、いなかでは遣る事さ。ものなりのいいように、生《な》れ生れ茄子《なす》のまじないだよ。」
「でも、畑のまた下道には、古い穀倉《こくぐら》があるし、狐か、狸か。」
「そんな事は決してない。考えているうちに、私にはよく分った。雨続きだし、石段が辷《すべ》るだの、お前さんたち、蛇が可恐《こわ》いのといって、失礼した。――今夜も心ばかりお鳥居の下まで行った――毎朝|拍手《かしわで》は打つが、まだお山へ上らぬ。あの高い森の上に、千木《ちぎ》のお屋根が拝される……ここの鎮守様の思召しに相違ない。――五月雨《さみだれ》の徒然《つれづれ》に、踊を見よう。――さあ、その気で、更《あらた》めて、ここで真面目《まじめ》に踊り直そう。神様にお目にかけるほどの本芸は、お互にうぬぼれぬ。杓子舞、擂粉木舞だ。二人は、わざとそれをお持ち、真面目だよ、さ、さ、さ。可
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