だね。たとえばさ、真のおじきにした処で、いやしくも男の前だ。あれでは跨いだんじゃない、飛んだんだ。いや、足を宙に上げたんだ。――」
「知らない、おじさん。」
「もっとも、一所に道を歩行《ある》いていて、左とか右とか、私と説が違って、さて自分が勝つと――銀座の人込の中で、どうです、それ見たか、と白い……」
「多謝《サンキュウ》。」
「逞《たくま》しい。」
「取消し。」
「腕を、拳固がまえの握拳《にぎりこぶし》で、二の腕の見えるまで、ぬっと象の鼻のように私の目のさきへ突出《つきだ》した事があるんだからね。」
「まだ、踊っているようだわね、話がさ。」
「私も、おばさん、いきなり踊出したのは、やっぱり私のように思われてならないのよ。」
「いや、ものに誘われて、何でも、これは、言合わせたように、前後甲乙、さっぱりと三人|同時《いっとき》だ。」
「可厭《いや》ねえ、気味の悪い。」
「ね、おばさん、日の暮方に、お酒の前。……ここから門のすぐ向うの茄子畠《なすばたけ》を見ていたら、影法師のような小さなお媼《ばあ》さんが、杖に縋《すが》ってどこからか出て来て、畑の真中《まんなか》へぼんやり立って、その杖
前へ 次へ
全43ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング