《うつむ》いて笑うやら。ちょっとまた踊が憑《つ》いた形になると、興に乗じて、あの番頭を噴出《ふきだ》させなくっては……女中をからかおう。……で、あろう事か、荒物屋で、古新聞で包んでよこそう、というものを、そのままで結構よ。第一色気ざかりが露出《むきだ》しに受取ったから、荒物屋のかみさんが、おかしがって笑うより、禁厭《まじない》にでもするのか、と気味の悪そうな顔をしたのを、また嬉しがって、寂寥《せきりょう》たる夜店のあたりを一廻り。横町を田畝《たんぼ》へ抜けて――はじめから志した――山の森の明神の、あの石段の下へ着いたまでは、馬にも、猪《いのしし》にも乗った勢《いきおい》だった。
 そこに……何を見たと思う。――通合わせた自動車に、消えて乗って、わずかに三分。……
 宿へ遁返《にげかえ》った時は、顔も白澄むほど、女二人、杓子と擂粉木を出来得る限り、掻合《かきあ》わせた袖の下へ。――あら、まあ、笛吹は分別で、チン、カラカラカラ、チン。わざと、チンカラカラカラと雀を鳴らして、これで出迎えた女中だちの目を逸《そ》らさせたほどなのであった。
「いわば、お儀式用の宝ものといっていいね、時ならない食
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