みえ》、七重《ななえ》に――たなびかせた、その真中《まんなか》に、丸太|薪《たきぎ》を堆《うずたか》く烈々と燻《く》べ、大釜《おおがま》に湯を沸かせ、湯玉の霰《あられ》にたばしる中を、前後《あとさき》に行違い、右左に飛廻って、松明《たいまつ》の火に、鬼も、人も、神巫《みこ》も、禰宜《ねぎ》も、美女も、裸も、虎の皮も、紅《くれない》の袴《はかま》も、燃えたり、消えたり、その、ひゅうら、ひゅ、ひゅうら、ひゅ、諏訪の海、水底《みなそこ》照らす小玉石、を唄いながら、黒雲に飛行《ひぎょう》する、その目覚しさは……なぞと、町を歩行《ある》きながら、ちと手真似で話して、その神楽の中に、青いおかめ、黒いひょっとこの、扮装《いでたち》したのが、こてこてと飯粒をつけた大杓子《おおしゃくし》、べたりと味噌を塗った太擂粉木《ふとすりこぎ》で、踊り踊り、不意を襲って、あれ、きゃア、ワッと言う隙《ひま》あらばこそ、見物、いや、参詣の紳士はもとより、装《よそおい》を凝らした貴婦人令嬢の顔へ、ヌッと突出し、べたり、ぐしゃッ、どろり、と塗る……と話す頃は、円髷が腹筋《はらすじ》を横によるやら、娘が拝むようにのめって俯向
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