舞出して、漁師町の棟を飛んで、海へころげて落ちたろう。
馬鹿気ただけで、狂人《きちがい》ではないから、生命《いのち》に別条はなく鎮静した。――ところで、とぼけきった興は尽きず、神巫《みこ》の鈴から思いついて、古びた玩弄品屋の店で、ありあわせたこの雀を買ったのがはじまりで、笛吹はかつて、麻布辺の大資産家で、郷土民俗の趣味と、研究と、地鎮祭をかねて、飛騨《ひだ》、三河、信濃《しなの》の国々の谷谷谷深く相|交叉《こうさ》する、山また山の僻村《へきそん》から招いた、山民一行の祭に参じた。桜、菖蒲《あやめ》、山の雉子《きじ》の花踊。赤鬼、青鬼、白鬼の、面も三尺に余るのが、斧鉞《おのまさかり》の曲舞する。浄《きよ》め砂置いた広庭の檀場には、幣《ぬさ》をひきゆい、注連《しめ》かけわたし、来《きた》ります神の道は、(千道《ちみち》、百綱《ももづな》、道七つ。)とも言えば、(綾《あや》を織り、錦《にしき》を敷きて招じる。)と謡うほどだから、奥山人が、代々に伝えた紙細工に、巧《わざ》を凝らして、千道百綱を虹《にじ》のように。飾《かざり》の鳥には、雉子、山鶏《やまどり》、秋草、もみじを切出したのを、三重《
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