い鰭《ひれ》の行列で、巌竃《いわかまど》の簀《す》の中を、きらきらきらきら、日南《ひなた》ぼっこ。ニコニコとそれを見い、見い、身のぬらめきに、手唾《てつばき》して、……漁師が網を繕《つぐの》うでしゅ……あの真似をして遊んでいたでしゅ。――処へ、土地ところには聞馴《ききな》れぬ、すずしい澄んだ女子《おなご》の声が、男に交って、崖上の岨道《そばみち》から、巌角《いわかど》を、踏んず、縋《すが》りつ、桂井《かつらい》とかいてあるでしゅ、印半纏《しるしばんてん》。」
「おお、そか、この町の旅籠《はたご》じゃよ。」
「ええ、その番頭めが案内でしゅ。円髷《まるまげ》の年増と、その亭主らしい、長面《ながづら》の夏帽子。自動車の運転手が、こつこつと一所に来たでしゅ。が、その年増を――おばさん、と呼ぶでございましゅ、二十四五の、ふっくりした別嬪《べっぴん》の娘――ちくと、そのおばさん、が、おばしアん、と云うか、と聞こえる……清《すずし》い、甘い、情のある、その声が堪《たま》らんでしゅ。」
「はて、異な声の。」
「おららが真似るようではないでしゅ。」
「ほ、ほ、そか、そか。」
 と、余念なさそうに頷《うな
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