ものじゃの。」
「畜生!人間。」
「静《しずか》に――」
 ごぼりと咳《せ》いて、
「御前《おんまえ》じゃ。」
 しゅッと、河童は身を縮めた。
「日の今日、午頃《ひるごろ》、久しぶりのお天気に、おらら沼から出たでしゅ。崖を下りて、あの浜の竃巌《かまどいわ》へ。――神職様《かんぬしさま》、小鮒《こぶな》、鰌《どじょう》に腹がくちい、貝も小蟹《こがに》も欲しゅう思わんでございましゅから、白い浪の打ちかえす磯端《いそばた》を、八|葉《よう》の蓮華《れんげ》に気取り、背後《うしろ》の屏風巌《びょうぶいわ》を、舟後光《ふなごこう》に真似て、円座して……翁様《おきなさま》、御存じでございましょ。あれは――近郷での、かくれ里。めった、人の目につかんでしゅから、山根の潮の差引きに、隠れたり、出たりして、凸凹《でこぼこ》凸凹凸凹と、累《かさな》って敷く礁《いわ》を削り廻しに、漁師が、天然の生簀《いけす》、生船《いけぶね》がまえにして、魚《さかな》を貯えて置くでしゅが、鯛《たい》も鰈《かれい》も、梅雨じけで見えんでしゅ。……掬《すく》い残りの小《ちゃっ》こい鰯子《いわしこ》が、チ、チ、チ、(笑う。)……青
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