ず》いた――風はいま吹きつけたが――その不思議に乱れぬ、ひからびた燈心とともに、白髪《しらが》も浮世離れして、翁《おきな》さびた風情である。
「翁様、娘は中肉にむっちりと、膚《はだ》つきが得《え》う言われぬのが、びちゃびちゃと潮へ入った。褄《つま》をくるりと。」
「危《あぶな》やの。おぬしの前でや。」
「その脛《はぎ》の白さ、常夏《とこなつ》の花の影がからみ、磯風に揺れ揺れするでしゅが――年増も入れば、夏帽子も。番頭も半纏の裙《すそ》をからげたでしゅ。巌根《いわね》づたいに、鰒《あわび》、鰒、栄螺《さざえ》、栄螺。……小鰯《こいわし》の色の綺麗さ。紫式部といったかたの好きだったというももっともで……お紫《むら》と云うがほんとうに紫……などというでしゅ、その娘が、その声で。……淡い膏《あぶら》も、白粉《おしろい》も、娘の匂いそのままで、膚《はだ》ざわりのただ粗《あら》い、岩に脱いだ白足袋の裡《なか》に潜って、熟《じっ》と覗いていたでしゅが。一波上るわ、足許《あしもと》へ。あれと裳《もすそ》を、脛がよれる、裳が揚る、紅《あか》い帆が、白百合の船にはらんで、青々と引く波に走るのを見ては、何と
前へ
次へ
全43ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング