れど、京千代と来たら、玉乗りに凝ってるから、片端《かたっぱし》から、姉様《あねさま》も殿様も、紅《あか》い糸や、太白で、ちょっとかがって、大小|護謨毬《ゴムまり》にのッけて、ジャズ騒ぎさ、――今でいえば。
 主婦《おかみ》に大目玉をくった事があるんだけれど、弥生《やよい》は里の雛遊《ひなあそ》び……は常磐津《ときわづ》か何かのもんくだっけ。お雛様を飾った時、……五人|囃子《ばやし》を、毬にくッつけて、ぽんぽんぽん、ころん、くるくるなんだもの。
 ところがね、真夜中さ。いいえ、二人はお座敷へ行っている……こっちはお茶がちだから、お節句だというのに、三人のいつもの部屋で寝ました処、枕許が賑《にぎや》かだから、船底を傾けて見ますとね、枕許を走ってる、長い黒髪の、白いきものが、球に乗って、……くるりと廻ったり、うしろへ反ったり、前へ辷《すべ》ったり、あら、大きな蝶が、いくつも、いくつも雪洞《ぼんぼり》の火を啣《くわ》えて踊る、ちらちら紅い袴《はかま》が、と吃驚《びっくり》すると、お囃子が雛壇で、目だの、鼓の手、笛の口が動くと思うと、ああ、遠い高い処、空の座敷で、イヤアと冴えて、太鼓の掛声、それ
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