、鍵のかかっていないことは分っています。こんな蒸暑さでも心得は心得で、縁も、戸口も、雨戸はぴったり閉っていましたが、そこは古い農家だけに、節穴だらけ、だから、覗《のぞ》くと、よく見えました。土間の向うの、大《おおき》い炉のまわりに女が三人、男が六人、ごろんごろん寝ているのが。
若い人が、鼻紙を、と云って、私のを――そこらから拾って来た、いくらもあります、農家だから。――藁すべで、前刻《さっき》のような人形を九つ、お前さん、――そこで、その懐紙を、引裂いて、ちょっと包《くる》めた分が、白くなるから、妙に三人の女に見えるじゃありませんか。
敷居際へ、――炉端のようなおなじ恰好《かっこう》に、ごろんと順に寝かして、三度ばかり、上から掌《てのひら》で俯向《うつむ》けに撫《な》でたと思うと、もう楽なもの。
若い人が、ずかずか入って、寝ている人間の、裾《すそ》だって枕許《まくらもと》だって、構やしません。大まかに掻捜して、御飯、お香こう、お茶の土瓶まで……目刺を串ごと。旧の盆過ぎで、苧殻《おがら》がまだ沢山あるのを、へし折って、まあ、戸を開放しのまま、敷居際、燃しつけて焼くんだもの、呆れまし
前へ
次へ
全49ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング