……から脛《すね》の色の白いのが素足に草鞋《わらじ》ばきで、竹の杖を身軽について、すっと出て来てさ、お前さん。」
 お妻は、踊の棒に手をかけたが、
「……実は、夜食をとりはぐって、こっちも腹がすいて堪らない。堂にお供物の赤飯でもありはしないか、とそう思って覗《のぞ》いて、お前を見たんだ、女じゃ食われない、食いもしようが可哀相《かわいそう》だ、といって笑うのが、まだ三十前、いいえ二十六七とも見える若い人。もう少し辛抱おしと、話しながら四五町、土橋を渡って、榎《えのき》と柳で暗くなると、家《うち》があります。その取着《とッつき》らしいのの表戸を、きしきし、その若い人がやるけれど、開きますまい、あきません。その時さ、お前さんちょっと捜して、藁《わら》すべを一本見つけて。」
 お妻は懐紙の坊さん(その言《ことば》に従う)を一人、指につまんでいった。あと連は、掌《たなそこ》の中に、こそこそ縮まる。
「それでね、あなた、そら、かなの、※[#「耳」を崩した変体仮名「に」、136−11]形の、その字の上を、まるいように、ひょいと結んで、(お開け、お開け。)と言いますとね。」
 信也氏はその顔を瞻《みま
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