をここに音信《おとず》るるものは、江戸座、雪中庵の社中か、抱一《ほういつ》上人の三代目、少くとも蔵前の成美《せいび》の末葉ででもあろうと思うと、違う。……田畝《たんぼ》に狐火が灯《とも》れた時分である。太郎|稲荷《いなり》の眷属《うから》が悪戯《いたずら》をするのが、毎晩のようで、暗い垣から「伊作、伊作」「おい、お祖母《ばあ》さん」くしゃんと嚔《くしゃみ》をして消える。「畜生め、またうせた。」これに悩まされたためでもあるまい。夜あそびをはじめて、ぐれだして、使うわ、ねだるわ。勘当ではない自分で追出《おんで》て、やがて、おかち町辺に、もぐって、かつて女たちの、玉章《たまずさ》を、きみは今……などと認《したた》めた覚えから、一時、代書人をしていた。が、くらしに足りない。なくなれば、しゃっぽで、袴《はかま》で、はた、洋服で、小浜屋の店さして、揚幕ほどではあるまい、かみ手から、ぬっと来る。
(お京さんの茶の間話に聞くのである。)
鴾の細君の弱ったのは、爺さんが、おしきせ何本かで、へべったあと、だるいだるい、うつむけに畳に伸びた蹠《あしうら》を踏ませられる。……ぴたぴたと行《や》るうちに、草臥
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