うたの続きが糸に紛れた。――

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きりょうも、いろも、雪おんな……
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 ずどんと鳴って、壁が揺れた。雪見を喜ぶ都会人でも、あの屋根を辷《すべ》る、軒しずれの雪の音は、凄《すさま》じいのを知って驚く……春の雨だが、ざんざ降りの、夜ふけの忍駒《しのびごま》だったから、かぶさった雪の、その落ちる、雪のその音か、と吃驚《びっくり》したが、隣の間から、小浜屋の主婦《おかみ》が襖《ふすま》をドシンと打ったのが、古家だから、床の壁まで家鳴《やなり》をするまで響いたのである。
 お妻が、糸の切れたように、黙った。そうしてうつむいた。
「――魔が魅《さ》すといいますから――」
 一番|鶏《どり》であろう……鶏《とり》の声が聞こえて、ぞっとした。――引手茶屋がはじめた鳥屋でないと、深更《よふけ》に聞く、鶏の声の嬉しいものでないことに、読者のお察しは、どうかと思う。
 時に、あの唄は、どんな化ものが出るのだろう。鴾氏も、のちにお京さん――細君に聞いた。と、忘れたと云って教えなかった。
「――まだ小どもだったんですもの――」
 浜町の鳥屋は、すぐ潰《つぶ》れた。
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