鳥《ほととぎす》がないたのである。
 それでは、おなじに、吉原を焼出されて、一所に浜町へ落汐《おちしお》か、というと、そうでない。ママ、ごよごよは出たり引いたり、ぐれたり、飲んだり、八方流転の、そして、その頃はまた落込みようが深くって、しばらく行方が知れなかった。ほども遠い、……奥沢の九品仏《くほんぶつ》へ、廓《くるわ》の講中《こうじゅう》がおまいりをしたのが、あの辺の露店の、ぼろ市で、着たのはくたびれた浴衣だが、白地の手拭《てぬぐい》を吉原かぶりで、色の浅黒い、すっきり鼻の隆《たか》いのが、朱羅宇《しゅらう》の長煙草《ながぎせる》で、片靨《かたえくぼ》に煙草《たばこ》を吹かしながら田舎の媽々《かかあ》と、引解《ひっとき》ものの価《ね》の掛引をしていたのを視《み》たと言う……その直後である……浜町の鳥料理。
 お妻が……言った通り、気軽に唄いもし、踊りもしたのに、一夜《あるよ》、近所から時借りの、三味線の、爪弾《つめびき》で……

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丑《うし》みつの、鐘もおとなき古寺に、ばけものどしがあつまりア……
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 ――おや、聞き馴《な》れぬ、と思う、
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