…ああ、悪戯《いたずら》をするよ。」
と言った。小母さんは、そのおばけを、魔を、鬼を、――ああ、悪戯をするよ、と独言《ひとりごと》して、その時はじめて真顔になった。
私は今でも現《うつつ》ながら不思議に思う。昼は見えない。逢魔《おうま》が時からは朧《おぼろ》にもあらずして解《わか》る。が、夜の裏木戸は小児心《こどもごころ》にも遠慮される。……かし本の紙ばかり、三日五日続けて見て立つと、その美しいお嬢さんが、他所《よそ》から帰ったらしく、背《せな》へ来て、手をとって、荒れた寂しい庭を誘って、その祠《ほこら》の扉を開けて、燈明の影に、絵で知った鎧《よろい》びつのような一具の中から、一冊の草双紙を。……
「――絵解《えとき》をしてあげますか……(註。草双紙を、幼いものに見せて、母また姉などの、話して聞かせるのを絵解と言った。)――読めますか、仮名ばかり。」
「はい、読めます。」
「いい、お児《こ》ね。」
きつね格子に、その半身、やがて、※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《ろう》たけた顔が覗《のぞ》いて、見送って消えた。
その草双紙である。一冊は、夢中で我
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