っと見知っている、ちとたりないほどの色男なんだ――それが……医師《いしゃ》も駆附けて、身体《からだ》を検《しら》べると、あんぐり開けた、口一杯に、紅絹《もみ》の糠袋……」
「…………」
「糠袋を頬張《ほおば》って、それが咽喉《のど》に詰《つま》って、息が塞《ふさが》って死んだのだ。どうやら手が届いて息を吹いたが。……あとで聞くと、月夜にこの小路へ入る、美しいお嬢さんの、湯上りのあとをつけて、そして、何だよ、無理に、何、あの、何の真似だか知らないが、お嬢さんの舌をな。」
 と、小母さんは白い顔して、ぺろりとその真紅《まっか》な舌。
 小僧は太い白蛇に、頭から舐《な》められた。
「その舌だと思ったのが、咽喉へつかえて気絶をしたんだ。……舌だと思ったのが、糠袋。」 
 とまた、ぺろりと見せた。
「厭《いや》だ、小母さん。」
「大丈夫、私がついているんだもの。」
「そうじゃない。……小母さん、僕もね、あすこで、きれいなお嬢さんに本を借りたの。」
「あ。」
と円い膝に、揉《も》み込むばかり手を据えた。
「もう、見たかい。……ええ、高島田で、紫色の衣《き》ものを着た、美しい、気高い……十八九の。…
前へ 次へ
全17ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング