り来《きた》れる趣。髪すべて乱れ、袂《たもと》裂け帯崩る。
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公子 (玉盞《ぎょくさん》を含みつつ悠然として)故郷はどうでした。……どうした、私が云った通《とおり》だろう。貴女の父の少《わか》い妾《めかけ》は、貴女のその恐しい蛇の姿を見て気絶した。貴女の父は、下男とともに、鉄砲をもってその蛇を狙ったではありませんか。渠等《かれら》は第一、私を見てさえ蛇体だと思う。人間の目はそういうものだ。そんな処に用はあるまい。泣いていては不可《いか》ん。
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美女|悲泣《ひきゅう》す。
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不可ん、おい、泣くのは不可ん。(眉を顰《ひそ》む。)
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女房 (背を擦《さす》る)若様は、歎悲《かなし》むのがお嫌《きらい》です。御性急でいらっしゃいますから、御機嫌に障ると悪い。ここは、楽しむ処、歌う処、舞う処、喜び、遊ぶ処ですよ。
美女 ええ、貴女方は楽《たのし》いでしょう、嬉しいでしょう、お舞いなさい、お唄いなさい、私、私は泣死《
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