なきじに》に死ぬんです。
公子 死ぬまで泣かれて堪《たま》るものか。あんな故郷《くに》に何の未練がある。さあ、機嫌を直せ。ここには悲哀のあることを許さんぞ。
美女 お許しなくば、どうなりと。ええ、故郷《ふるさと》の事も、私の身体《からだ》も、皆《みんな》、貴方の魔法です。
公子 どこまで疑う。(忿怒《ふんぬ》の形相)お前を蛇体と思うのは、人間の目だと云うに。俺《おれ》の……魔……法。許さんぞ。女、悲しむものは殺す。
美女 ええ、ええ、お殺しなさいまし。活《い》きられる身体《からだ》ではないのです。
公子 (憤然として立つ)黒潮等は居《お》らんか。この女を処置しろ。
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言下に、床板を跳ね、その穴より黒潮騎士《こくちょうきし》、大錨《おおいかり》をかついで顕《あらわ》る。騎士二三、続いて飛出づ。美女を引立て、一の騎士が倒《さかしま》に押立てたる錨に縛《いまし》む。錨の刃越《はごし》に、黒髪の乱るるを掻掴《かいつか》んで、押仰向《おしあおむ》かす。長槍《ながやり》の刃、鋭くその頤《あぎと》に臨む。
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