の瞼《まぶた》花やかに)誰も知らない命は、生命《いのち》ではありません。この宝玉も、この指環も、人が見ないでは、ちっとも価値《ねうち》がないのです。
公子 それは不可《いか》ん。(卓子《テエブル》を軽く打って立つ)貴女は栄燿《えよう》が見せびらかしたいんだな。そりゃ不可ん。人は自己、自分で満足をせねばならん。人に価値《ねうち》をつけさせて、それに従うべきものじゃない。(近寄る)人は自分で活きれば可《い》い、生命《いのち》を保てば可い。しかも愛するものとともに活きれば、少しも不足はなかろうと思う。宝玉とてもその通り、手箱にこれを蔵すれば、宝玉そのものだけの価値を保つ。人に与うる時、十倍の光を放つ。ただ、人に見せびらかす時、その艶は黒くなり、その質は醜くなる。
美女 ええ、ですから……来るお庭にも敷詰めてありました、あの宝玉一つも、この上お許し下さいますなら、きっと慈善に施して参ります。
公子 ここに、用意の宝蔵がある。皆、貴女のものです。施すは可《い》い。が、人知れずでなければ出来ない、貴女の名を顕《あらわ》し、姿を見せては施すことはならないんです。
美女 それでは何にもなりません。何の
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