げ]
なれども、僧都が身は、こうした墨染の暗夜《やみ》こそ可《よ》けれ、なまじ緋の法衣《ころも》など絡《まと》おうなら、ずぶ濡《ぬれ》の提灯《ちょうちん》じゃ、戸惑《とまどい》をした※[#「魚+覃」、第3水準1−94−50]《えい》の魚《うお》じゃなどと申そう。圧《おし》も石も利く事ではない。(細く丈長き鉄《くろがね》の錨《いかり》を倒《さかしま》にして携えたる杖《つえ》を、軽《かろ》く突直す。)
いや、また忘れてはならぬ。忘れぬ前《さき》に申上げたい儀で罷出《まかりで》た。若様へお取次を頼みましょ。
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侍女一 畏《かしこま》りました。唯今《ただいま》。……あの、ちょうど可《い》い折に存じます。
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右の方《かた》闥《ドア》を排して行《ゆ》く。
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僧都 (謹みたる体《てい》にて室内を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》す。)
 はあ、争われぬ。法衣《ころも》の袖に春がそよぐ。
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(錨の杖を抱
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