く其方《そなた》を凝視す。)
侍女五 きゃっ。(叫ぶ。隙《ひま》なし。その姿、窓の外へ裳《もすそ》を引いて颯《さっ》と消ゆ)ああれえ。
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侍女等、口々に、あれ、あれ、鮫《さめ》が、鮫が、入道鮫が、と立乱れ騒ぎ狂う。
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公子 入道鮫が、何、(窓に衝《つ》と寄る。)
侍女一 ああ、黒鮫が三百ばかり。
侍女二 取巻いて、群りかかって。
侍女三 あれ、入道が口に銜《くわ》えた。
公子 外道《げどう》、外道、その女を返せ、外道。(叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]《しった》しつつ、窓より出でんとす。)
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侍女等|縋《すが》り留《とど》む。
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侍女四 軽々しい、若様。
公子 放せ。あれ見い。外道の口の間から、女の髪が溢《こぼ》れて落ちる。やあ、胸へ、乳へ、牙《きば》が喰入る。ええ、油断した。……骨も筋も断《き》れような。ああ、手を悶《もだ》える、裳《もすそ》を煽《あお》る。
侍女六 いいえ、若様、私たち御殿
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