心あって招かないのに来た、賽にも魂がある、寄越《よこ》せ。(受取る)卓子《テエブル》の上へ私が投げよう。お前たち一から七まで、目に従うて順に動くが可《い》い。さあ、集《あつま》れ。
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(侍女七人、いそいそと、続いて廻廊のはずれに集り、貴女《あなた》は一。私は二。こう口々に楽しげに取定《とりき》め、勇みて賽を待つ。)
可《い》いか、(片手に書を持ち、片手に賽を投ぐ)――一は三、かな川へ。(侍女一人進む)二は一、品川まで。(侍女一人また進む)三は五だ、戸塚へ行《ゆ》け。
(かくして順々に繰返し次第に進む。第五の侍女、年最も少きが一人衆を離れて賽の目に乗り、正面突当りなる窓際に進み、他と、間《あわい》隔る。公子。これより前《さき》、姿見を見詰めて、賽の目と宿の数を算《かぞ》え淀《よど》む。……この時、うかとしたる体《てい》に書を落す。)
まだ、誰も上らないか。
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侍女一 やっと一人天竜川まで参りました。
公子 ああ、まだるっこい。賽を二つ一所に振ろうか。(手にしながら姿見に見入る。侍女等、等《ひとし》
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