雲の枚《ペエジ》に出た。――箱根を越えて伊豆の海、三島の里の神垣や――さあ、忘れた所は教えてやろう。この歌で、五十三次の宿を覚えて、お前たち、あの道中双六《どうちゅうすごろく》というものを遊んでみないか。上《あが》りは京都だ。姉の御殿に近い。誰か一人上って、双六の済む時分、ちょうど、この女は(姿見を見つつ)着くであろう。一番上りのものには、瑪瑙《めのう》の莢《さや》に、紅宝玉の実を装《かざ》った、あの造りものの吉祥果《きっしょうか》を遣《や》る。絵は直ぐに間に合ぬ。この室《へや》を五十三に割って双六の目に合せて、一人ずつ身体《からだ》を進めるが可《よ》かろう。……賽《さい》が要る、持って来い。
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(侍女六七、うつむいてともに微笑す)――どうした。
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侍女六 姿見をお取寄せ遊ばしました時。
侍女七 二人して盤の双六をしておりましたので、賽は持っておりますのでございます。
公子 おもしろい。向うの廻廊の端へ集まれ。そして順になって始めるが可《い》い。
侍女七 床へ振りましょうでございますか。
公子 
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