たのでござります。
公子 冥土とは?……それこそ不埒《ふらち》だ。そして仇光《あだびか》りがする、あれは……水晶か。
博士 水晶とは申す条、近頃は専ら硝子《ビイドロ》を用いますので。
公子 (一笑す)私の恋人ともあろうものが、無ければ可《い》い。が、硝子《ビイドロ》とは何事ですか。金剛石、また真珠の揃うたのが可い。……博士、贈ってしかるべき頸飾《えりかざり》をお検《しら》べ下さい。
博士 畏《かしこま》りました。
公子 そして指環《ゆびわ》の珠の色も怪しい、お前たちどう見たか。
侍女一 近頃は、かんてらの灯の露店《ほしみせ》に、紅宝玉《ルビイ》、緑宝玉《エメラルド》と申して、貝を鬻《ひさ》ぐと承ります。
公子 お前たちの化粧の泡が、波に流れて渚《なぎさ》に散った、あの貝が宝石か。
侍女二 錦襴《きんらん》の服を着けて、青い頭巾《ずきん》を被《かぶ》りました、立派な玉商人《たまあきんど》の売りますものも、擬《にせ》が多いそうにございます。
公子 博士、ついでに指環を贈ろう。僧都、すぐに出向うて、遠路であるが、途中、早速、硝子《ビイドロ》とその擬《まが》い珠《たま》を取棄てさして下さい。お
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