り、虹《にじ》が燃えるより美しかった。恋の火の白熱は、凝《こ》って白玉《はくぎょく》となる、その膚《はだえ》を、氷った雛芥子《ひなげし》の花に包んだ。姉の手の甘露が沖を曇らして注いだのだった。そのまま海の底へお引取りになって、現に、姉上の宮殿に、今も十七で、紅《くれない》の珊瑚の中に、結綿《ゆいわた》の花を咲かせているのではないか。
男は死ななかった。存命《ながら》えて坊主になって老い朽ちた。娘のために、姉上はそれさえお引取りになった。けれども、その魂は、途中で牡《おす》の海月《くらげ》になった。――時々未練に娘を覗《のぞ》いて、赤潮に追払われて、醜く、ふらふらと生白《なまじろ》く漾《ただよ》うて失《う》する。あわれなものだ。
娘は幸福《しあわせ》ではないのですか。火も水も、火は虹となり、水は滝となって、彼の生命を飾ったのです。抜身《ぬきみ》の槍の刑罰が馬の左右に、その誉《ほまれ》を輝かすと同一《おんなじ》に。――博士いかがですか、僧都。
博士 しかし、しかし若様、私《わたくし》は慎重にお答えをいたしまする。身はこの職にありながら、事実、人間界の心も情も、まだいささかも分らぬのであ
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