じめ》の、咽喉《のど》を刺す硫黄《いおう》の臭気《におい》と思いのほか、ほんに、清《すず》しい、佳《い》い薫《かおり》、(柔《やわらか》に袖を動かす)……ですが、時々、悚然《ぞっと》する、腥《なまぐさ》い香のしますのは?……
女房 人間の魂が、貴女を慕うのでございます。海月《くらげ》が寄るのでございます。
美女 人の魂が、海月と云って?
女房 海に参ります醜い人間の魂は、皆《みんな》、海月になって、ふわふわさまようて歩行《ある》きますのでございます。
黒潮騎士 (口々に)――煩《うるさ》い。しっしっ。――(と、ものなき竜馬の周囲を呵《か》す。)
美女 まあ、情《なさけ》ない、お恥《はずか》しい。(袖をもって面《おもて》を蔽《おお》う。)
女房 いえ、貴女は、あの御殿の若様の、新夫人《にいおくさま》でいらっしゃいます、もはや人間ではありません。
美女 ええ。(袖を落す。――舞台転ず。真暗《まっくら》になる。)――
女房 (声のみして)急ぎましょう。美しい方を見ると、黒鰐《くろわに》、赤鮫《あかざめ》が襲います。騎馬が前後を守護しました。お憂慮《きづかい》はありませんが、いぎ参ると、斬合《
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