白いはないか、袖の紅《あか》いはないか、と胴の間《ま》、狭間《はざま》、帆柱の根、錨綱《いかりづな》の下までも、あなぐり探いたものなれども、孫子《まごこ》は措《お》け、僧都においては、久しく心にも掛けませいで、一向に不案内じゃ。
侍女一 (笑う)お精進《しょうじん》でおいで遊ばします。もし、これは、桜貝、蘇芳貝《すおうがい》、いろいろの貝を蕊《しべ》にして、花の波が白く咲きます、その渚《なぎさ》を、青い山、緑の小松に包まれて、大陸の婦《おんな》たちが、夏の頃、百合、桔梗《ききょう》、月見草、夕顔の雪の装《よそおい》などして、旭《あさひ》の光、月影に、遥《はるか》に(高濶《こうかつ》なる碧瑠璃《へきるり》の天井を、髪|艶《つや》やかに打仰ぐ)姿を映します。ああ、風情な。美しいと視《なが》めましたものでございますから、私《わたくし》ども皆が、今夜はこの服装《なり》に揃えました。
僧都 一段とお見事じゃ。が、朝ほど御機嫌伺いに出ました節は、御殿《ごてん》、お腰元衆、いずれも不断の服装《なり》でおいでなされた。その節は、今宵、あの美女がこれへ輿入の儀はまだ極《きま》らなんだ。じたい人間は決断が
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