の洋装したるが扉《ドア》より出《い》づ)はい、はい。これは御僧《おそう》。
僧都 や、目覚しく、美しい、異《かわ》った扮装《いでたち》でおいでなさる。
侍女一 御挨拶《ごあいさつ》でございます。美しいかどうかは存じませんけれど、異った支度には違いないのでございます。若様、かねてのお望みが叶《かな》いまして、今夜お輿入《こしいれ》のございます。若奥様が、島田のお髪《ぐし》、お振袖と承りましたから、私《わたくし》どもは、余計そのお姿のお目立ち遊ばすように、皆して、かように申合せましたのでございます。
僧都 はあ、さてもお似合いなされたが、いずこの浦の風俗じゃろうな。
侍女一 度々海の上へお出でなさいますもの、よく御存じでおあんなさいましょうのに。
僧都 いや、荒海を切って影を顕《あらわ》すのは暴風雨《あらし》の折から。如法《にょほう》たいてい暗夜《やみ》じゃに因って、見えるのは墓の船に、死骸《しがい》の蠢《うごめ》く裸体《はだか》ばかり。色ある女性《にょしょう》の衣《きぬ》などは睫毛《まつげ》にも掛《かか》りませぬ。さりとも小僧のみぎりはの、蒼《あお》い炎の息を吹いても、素奴《しゃつ》色の
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