も珠《たま》に替って、葉の青いのは、翡翠《ひすい》の琅※[#「王+干」、第3水準1−87−83]《ろうかん》、花片《はなびら》の紅白は、真玉《まだま》、白珠《しらたま》、紅宝玉。燃ゆる灯《ひ》も、またたきながら消えない星でございます。御覧遊ばせ、貴女。お召ものが濡れましたか。お髪《ぐし》も乱れはしますまい。何で、お身体《からだ》が倒《さかさま》でございましょう。
美女 最後に一目《ひとめ》、故郷《ふるさと》の浦の近い峰に、月を見たと思いました。それぎり、底へ引くように船が沈んで、私は波に落ちたのです。ただ幻に、その燈籠の様な蒼《あお》い影を見て、胸を離れて遠くへ行《ゆ》く、自分の身の魂か、導く鬼火かと思いましたが、ふと見ますと、前途《ゆくて》にも、あれあれ、遥《はるか》の下と思う処に、月が一輪、おなじ光で見えますもの。
女房 ああ、(望む)あの光は。いえ。月影ではございません。
美女 でも、貴方《あなた》、雲が見えます、雪のような、空が見えます、瑠璃色《るりいろ》の。そして、真白《まっしろ》な絹糸のような光が射《さ》します。
女房 その雲は波、空は水。一輪の月と見えますのは、これから貴
前へ
次へ
全63ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング