すそ》を吸いました。あわれ竜神、一命も捧げ奉ると、御恩のほどを難有《ありがた》がりましたのでござります。
公子 (微笑す)親仁《おやじ》の命などは御免だな。そんな魂を引取ると、海月《くらげ》が殖《ふ》えて、迷惑をするよ。
侍女五 あんな事をおっしゃいます。
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一同笑う。
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公子 けれども僧都、そんな事で満足した、人間の慾《よく》は浅いものだね。
僧都 まだまだ、あれは深い方でござります。一人娘の身に代えて、海の宝を望みましたは、慾念の逞《たくまし》い故でござりまして。……たかだかは人間同士、夥間《なかま》うちで、白い柔《やわらか》な膩身《あぶらみ》を、炎の燃立つ絹に包んで蒸しながら売り渡すのが、峠の関所かと心得ます。
公子 馬鹿だな。(珊瑚の椅子をすッと立つ)恋しい女よ。望めば生命《いのち》でも遣《や》ろうものを。……はは、はは。
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微笑す。
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侍女四 お思われ遊ばした娘御は、天地《あめつち》かけて、波か
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