流して、浦のもの等は迷惑をしはしないか。
僧都 いや、いや、黒潮と赤潮が、密《そ》と爪弾《つまはじ》きしましたばかり。人命を断つほどではござりませなんだ。もっとも迷惑をせば、いたせ、娘の親が人間同士の間《なか》でさえ、自分ばかりは、思い懸けない海の幸を、黄金《こがね》の山ほど掴《つか》みましたに因って、他の人々の難渋ごときはいささか気にも留めませぬに、海のお世子《よとり》であらせられます若様。人間界の迷惑など、お心に掛けさせますには毛頭当りませぬ儀でございます。
公子 (頷《うなず》く)そんなら可《よし》――僧都。
僧都 はは。(更《あらた》めて手を支《つ》く。)
公子 あれの親は、こちらから遣わした、娘の身の代《しろ》とかいうものに満足をしたであろうか。
僧都 御意、満足いたしましたればこそ、当御殿、お求めに従い、美女を沈めました儀にござります。もっとも、真鯛、鰹、真那鰹、その金銀の魚類のみでは、満足をしませなんだが、続いて、三抱え一対の枝珊瑚を、夜の渚に差置きますると、山の端《は》出づる月の光に、真紫に輝きまするを夢のように抱きました時、あれの父親は白砂に領伏《ひれふ》し、波の裙《
前へ
次へ
全63ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング