(額の汗を拭《ふ》く)それそれさよう、さよう。
公子 (微笑しつつ)笑うな、老人は真面目《まじめ》でいる。
侍女五 (最も少《わか》し。斉《ひと》しく公子の背後に附添う。派手に美《うるわ》しき声す)月の灘の桃色の枝珊瑚樹、対《つい》の一株、丈八尺、周囲《まわり》三抱《みかかえ》の分。一寸の玉三十三粒……雪の真珠、花の真珠。
侍女一 月の真珠。
僧都 しばらく。までじゃまでじゃ、までにござる。……桃色の枝珊瑚樹、丈八尺、周囲三抱の分までにござった。(公子に)鶴の卵ほどの紅宝玉、孔雀の渦巻の緑宝玉、青瑪瑙の盆、紫の瑠璃の台。この分は、天なる(仰いで礼拝す)月宮殿に貢《みつぎ》のものにござりました。
公子 私もそうらしく思って聞いた。僧都、それから後に言われた、その董、露草などは、金銀宝玉の類は云うまでもない、魚類ほどにも、人間が珍重しないものと聞く。が、同じく、あの方《かた》へ遣わしたものか。
僧都 綾、錦、牡丹、芍薬、縺《もつ》れも散りもいたしませぬを、老人の申条《もうしじょう》、はや、また海松《みる》のように乱れました。ええええ、その董、露草は、若様、この度の御旅行につき、白雪《はくせ
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