つ》の竜馬《りゅうめ》にめされ、渚《なぎさ》を掛けて浦づたい、朝夕の、茜《あかね》、紫、雲の上を山の峰へお潜《しの》びにてお出ましの節、珍しくお手に入《い》りましたを、御姉君《おんあねぎみ》、乙姫《おとひめ》様へ御進物の分でござりました。
侍女一 姫様は、閻浮檀金《えんぶだごん》の一輪挿《いちりんざし》に、真珠の露でお活《い》け遊ばし、お手許《てもと》をお離しなさいませぬそうにございます。
公子 度々は手に入らない。私も大方、姉上に進《あ》げたその事であろうと思った。
僧都 御意。娘の親へ遣わしましたは、真鯛より数えまして、珊瑚一対……までに止《とど》まりました。
侍女二 海では何ほどの事でもございませんが、受取ります陸《おか》の人には、鯛も比目魚も千と万、少ない数ではございますまいに、僅《わずか》な日の間に、ようお手廻し、お遣わしになりましてございます。
僧都 さればその事。一国、一島、津や浦の果《はて》から果を一網《ひとあみ》にもせい、人間|夥間《なかま》が、大海原《おおうなばら》から取入れます獲《え》ものというは、貝に溜《たま》った雫《しずく》ほどにいささかなものでござっての、お
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