》だけは保つことが出来ました。感謝状は先《ま》づそのしるしといつていいやうなもので、これを国への土産《みやげ》にすると、全国の社員は皆《みんな》満足に思ふです。既に自分の職務さへ、辛《かろ》うじて務めたほどのものが、何の余裕があつて、敵情を探るなんて、探偵や、斥候の職分が兼ねられます。またよしんば兼ねることが出来るにしても、それは余計なお世話であるです。今|貴下《あなた》にお談《はな》し申すことも、お検《しら》べになつて将校方にいつたことも、全くこれにちがひはないのでこのほかにいふことは知らないです。毀誉褒貶《きよほうへん》は仕方がない、逆賊でも国賊でも、それは何でもかまはないです。唯看護員でさへあれば可《いい》。しかし看護員たる躰面を失つたとでもいふことなら、弁解も致します、罪にも服します、責任も荷ふです。けれども愛国心がどうであるの、敵愾心《てきがいしん》がどうであるのと、左様《さよう》なことには関係しません。自分は赤十字の看護員です。」
 と淀《よど》みなく陳《の》べたりける。看護員のその言語には、更に抑揚と頓挫《とんざ》なかりき。

       六

 見る見る百人長は色|激
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