もまた群を抜けり。
今看護員のいひ出《い》だせる、その言《ことば》を聴くと斉《ひと》しく、
「何! 白状をしやうと思つたか。いや、実際味方の内情を、あの、敵に打明けやうとしたんか。君。」
いふ言《ことば》ややあらかりき。
看護員は何気《なにげ》なく、
「左様《そう》です。撲《ぶ》つな、蹴《け》るな、貴下《あなた》酷《ひど》いことをするぢやあありませんか。三日も飯《めし》を喰はさないで眼も眩《くら》むでゐるものを、赤條々《はだか》にして木の枝へ釣《つる》し上げてな、銃の台尻《だいじり》で以て撲《なぐ》るです。ま、どうでしやう。余り拷問《ごうもん》が厳《きび》しいので、自分もつひ苦しくつて堪《たま》りませんから、すつかり白状をして、早くその苦痛を助りたいと思ひました。けれども、軍隊のことについては、何にも知つちやあゐないので、赤十字の方ならば悉《くわ》しいから、病院のことなんぞ、悉しくいつて聞かして遣《や》つたです。が、其様《そん》なことは役に立たない。軍隊の様子を白状しろつて、益々酷く苛《さいな》むです。実は苦しくつて堪らなかつたですけれども、知らないのが真実《ほんとう》だからいへ
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