「あの、なりたけ、早くなさいましよ、もう追ッつけ帰りましょう。内のはいっこくで、気が強いんでござんすから、知らない方をこうやって、また間違いにでもなると不可《いけ》ません、ようござんすか。」
と茶碗に堆《うずたか》く装《も》ったのである。
その時、間《ま》の四隅を籠《こ》めて、真中処《まんなかどころ》に、のッしりと大胡坐《おおあぐら》でいたが、足を向うざまに突き出すと、膳はひしゃげたように音もなく覆《くつがえ》った。
「あれえ、」
と驚いて女房は腰を浮かして遁《に》げさまに、裾《すそ》を乱して、ハタと手を支《つ》き、
「何ですねえ。」
僧は大いなる口を開けて、また指した。その指で、かかる中《うち》にも袖で庇《かば》った、女房の胸をじりりとさしつつ、
(児《こ》を呉《く》れい。)
と聞いたと思うと、もう何にも知らなかった。
我に返って、良人の姿を一目見た時、ひしと取縋《とりすが》って、わなわなと震えたが、余り力強く抱いたせいか、お浜は冷《つめた》くなっていた。
こんな心弱いものに留守をさせて、良人が漁《すなど》る海の幸よ。
その夜はやがて、砂白く、崖《がけ》蒼《あお》き
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