ちらと帆が見えて海から吹通しの風|颯《さつ》と、濡れた衣《きぬ》の色を乱して記念《かたみ》の浴衣は揺《ゆら》めいた。親仁はうしろへ伸上って、そのまま出ようとする海苔粗朶《のりそだ》の垣根の許《もと》に、一本二本咲きおくれた嫁菜の花、葦《あし》も枯れたにこはあわれと、じっと見る時、菊枝は声を上げてわっと泣いた。

「妙法蓮華経如来寿量品《みょうほうれんげきょうにょらいじゅりょうぼん》第十六|自我得仏来所経諸劫数無量百千万億載阿僧祇《じがとくぶつらいしょきょうしょごうすうむりょうひゃくせんまんおくさいあそうぎ》。」
 川下の方から寂《しん》として聞えて来る、あたりの人の気勢《けはい》もなく、家々の灯《ともし》も漏れず、流《ながれ》は一面、岸の柳の枝を洗ってざぶりざぶりと音する中へ、菊枝は両親《ふたおや》に許されて、髪も結い、衣服もわざと同一《おなじ》扮《なり》で、お縫が附添い、身を投げたのはここからという蓬莱橋から、記念《かたみ》の浴衣を供養した。七日《なぬか》経《た》ってちょうど橘之助が命日のことであった。
「菊《きい》ちゃん、」
「姉さん、」
 二人は顔を見合せたが、涙ながらに手を合せ
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