かる髪の艶《つや》、あわれうらわかき神のまぼろしが梨園を消えようとする時の風情。

       十三

 橘之助は垢《あか》の着かない綺麗な手を胸に置いて、香《こう》の薫《かおり》を聞いていたが、一縷《いちる》の煙は二条《ふたすじ》に細く分れ、尖《さき》がささ波のようにひらひらと、靡《なび》いて枕に懸《かか》った時、白菊の方に枕を返して横になって、弱々しゅう襟を左右に開いたのを、どうなさいます? とお縫が尋ねると、勿体ないが汗臭いから焚《た》き占めましょう、と病苦の中に謂《い》ったという、香の名残《なごり》を留めたのが、すなわちここに在る記念《かたみ》の浴衣。
 懐しくも床《ゆかし》さに、お縫は死骸の身に絡《まと》った殊にそれが肺結核の患者であったのを、心得ある看護婦でありながら、記念《かたみ》にと謂って強いて貰い受けて来て葛籠《つづら》の底深く秘め置いたが、菊枝がかねて橘之助|贔屓《びいき》で、番附に記した名ばかり見ても顔色を変える騒《さわぎ》を知ってたので、昨夜、不動様の参詣《さんけい》の帰りがけ、年紀《とし》下ながら仲よしの、姉さんお内かい、と寄った折も、何は差置き橘之助の噂《
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