きのみ、疑《うたがい》も恐《おそれ》もなくって泣くのであった。
髪も揺《ゆら》めき蒲団も震うばかりであるから、仔細《しさい》は知らず、七兵衛はさこそとばかり、
「どうした、え、姉やどうした。」
問慰《といなぐさ》めるとようよう此方《こなた》を向いて、
「親方。」
「おお、」
「起きましょうか。」
「何、起きる。」
「起きられますよ。」
「占めたな! お前《めえ》じっとしてる方が可いけれど、ちっとも構わねえけれど、起《おき》られるか、遣《や》ってみろ一番、そうすりゃしゃんしゃんだ。気さえ確《たしか》になりゃ、何お前案じるほどの容体じゃあねえんだぜ。」と、七兵衛は孫をつかまえて歩行《あんよ》は上手の格で力をつける。
蒲団の外へは顔ばかり出していた、裾《すそ》を少し動かしたが、白い指をちらりと夜具の襟へかけると、顔をかくして、
「私、………」
浅緑
十二
「大事ねえ大事ねえ、水浸しになっていた衣服《きもの》はお前《めえ》あの通《とおり》だ、聞かっせえ。」
時に絶えず音するは静《しずか》な台所の点滴《したたり》である。
「あんなものを巻着けておいた日にゃ
前へ
次へ
全50ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング