は、真蒼《まっさお》な西瓜も、黄なる瓜も、颯《さっ》と銀色の蓑《みの》を浴びる。あくどい李の紅《あか》いのさえ、淡くくるくると浅葱《あさぎ》に舞う。水に迸《ほとばし》る勢《いきおい》に、水槽を装上《もりあが》って、そこから百条の簾《すだれ》を乱して、溝を走って、路傍《みちばた》の草を、さらさらと鳴して行《ゆ》く。
 音が通い、雫《しずく》を帯びて、人待石――巨石の割目に茂った、露草の花、蓼《たで》の紅《くれない》も、ここに腰掛けたという判官のその山伏の姿よりは、爽《さわや》かに鎧《よろ》うたる、色よき縅毛《おどしげ》を思わせて、黄金《こがね》の太刀も草摺《くさずり》も鳴るよ、とばかり、松の梢《こずえ》は颯々《さつさつ》と、清水の音に通って涼しい。
 けれども、涼しいのは松の下、分けて清水の、玉を鳴して流るる処ばかりであろう。
 三|間《げん》幅――並木の道は、真白《まっしろ》にキラキラと太陽に光って、ごろた石は炎を噴く……両側の松は梢から、枝から、おのが影をおのが幹にのみ這《は》わせつつ、真黒《まっくろ》な蛇の形を畝《うね》らす。
 雲白く、秀でたる白根《しらね》が岳の頂に、四時の雪は
前へ 次へ
全29ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング