ありながら、田は乾き、畠は割れつつ、瓜の畠の葉も赤い。来た処も、行《ゆ》く道も、露草は胡麻《ごま》のように乾《ひから》び、蓼の紅は蚯蚓《みみず》が爛《ただ》れたかと疑われる。
人の往来《ゆきき》はバッタリない。
大空には、あたかもこの海の沖を通って、有磯海《ありそうみ》から親不知《おやしらず》の浜を、五智の如来《にょらい》へ詣《もう》ずるという、泳ぐのに半身を波の上に顕《あらわ》して、列を造って行《ゆ》くとか聞く、海豚《いるか》の群が、毒気を吐掛けたような入道雲の低いのが、むくむくと推並《おしなら》んで、動くともなしに、見ていると、地《じ》が揺れるように、ぬッと動く。
見すぼらしい、が、色の白い学生は、高い方の松の根に一人居た。
見ても、薄桃色に、また青く透明《すきとお》る、冷い、甘い露の垂りそうな瓜に対して、もの欲《ほし》げに思われるのを恥じたのであろう。茶店にやや遠い人待石に――
で、その石には腰も掛けず、草に蹲《うずくま》って、そして妙な事をする。……煙草《たばこ》を喫《の》むのに、燐寸《マッチ》を摺った。が、燃さしの軸を、消えるのを待って、もとの箱に入れて、袂《たもと
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