なめら》かなる、石囲《いしがこい》の掘抜《ほりぬき》を噴出づる水は、音に聞えて、氷のごとく冷やかに潔い。人の知った名水で、並木の清水と言うのであるが、これは路傍《みちばた》に自《おのず》から湧いて流るるのでなく、人が囲った持主があって、清水茶屋と言う茶店が一軒、田畝《たんぼ》の土手上に廂《ひさし》を構えた、本家は別の、出茶屋《でぢゃや》だけれども、ちょっと見霽《みはらし》の座敷もある。あの低い松の枝の地紙形《じがみなり》に翳蔽《さしおお》える葉の裏に、葦簀《よしず》を掛けて、掘抜に繞《めぐ》らした中を、美しい清水は、松影に揺れ動いて、日盛《ひざかり》にも白銀《しろがね》の月影をこぼして溢《あふ》るるのを、広い水槽でうけて、その中に、真桑瓜《まくわうり》、西瓜《すいか》、桃、李《すもも》の実を冷《ひや》して売る。……
 名代《なだい》である。

       二

 畠《はたけ》一帯、真桑瓜が名産で、この水あるがためか、巨石《おおいし》の瓜は銀色だと言う……瓜畠がずッと続いて、やがて蓮池《はすいけ》になる……それからは皆|青田《あおた》で。
 畑《はた》のは知らない。実際、水槽に浸したの
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