くろ》にすくと立つと、太陽《ひ》を横に並木の正面、根を赫《かっ》と赤く焼いた。
「火事――」と道の中へ衝《つ》と出た、人の飛ぶ足より疾《はや》く、黒煙《くろけむり》は幅を拡げ、屏風《びょうぶ》を立てて、千仭《せんじん》の断崖《がけ》を切立てたように聳《そばだ》った。
「火事だぞ。」
「あら、大変。」
「大《おおき》いよ!」
火事だ火事だと、男も女も口々に――
「やあ、馬鹿々々。何だ、そんな体《なり》で、引込《ひっこ》まねえか、こら、引込まんか。」
と雲の峰の下に、膚脱《はだぬぎ》、裸体《はだか》の膨れた胸、大《おおき》な乳、肥《ふと》った臀《しり》を、若い奴が、鞭《むち》を振って追廻す――爪立《つまだ》つ、走る、緋《ひ》の、白の、股《もも》、向脛《むかはぎ》を、刎上《はねあ》げ、薙伏《なぎふ》せ、挫《ひし》ぐばかりに狩立てる。
「きゃッ。」
「わッ。」
と呼ぶ声、叫ぶ声、女どもの形は、黒い入道雲を泳ぐように立騒ぐ真上を、煙の柱は、じりじりと蔽《おお》い重《かさな》る。……
畜生――修羅――何等の光景。
たちまち天に蔓《はびこ》って、あの湖の薬研の銀も真黒になったかと思うと、村
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