けで、土地で売る雪を切った氷を、手拭《てぬぐい》にくるんで南瓜《とうなす》かぶりに、頤《あご》を締めて、やっぱり洋傘《こうもり》、この大爺《おおじじい》が殿《しっぱらい》で。
「あらッ、水がある……」
 と一人の女が金切声を揚げると、
「水がある!」
 と言うなりに、こめかみの処へ頭痛膏《ずつうこう》を貼《は》った顔を掉《ふ》って、年増が真先《まっさき》に飛込むと、たちまち、崩れたように列が乱れて、ばらばらと女連《おんなれん》が茶店へ駆寄る。
 ちょっと立どまって、大爺と口を利いた少《わか》いのが、続いて入りざまに、
「じゃあ、何だぜ、お前さん方――ここで一休みするかわりに、湊《みなと》じゃあ、どこにも寄らねえで、すぐに、汽船だよ、船だよ。」
 銀鎖を引張って、パチンと言わせて、
「出帆に、もう、そんなに間もねえからな。」
「おお、暑い、暑い。」
「ああ暑い。」
 もう飛ついて、茶碗やら柄杓《ひしゃく》やら。諸膚《もろはだ》を脱いだのもあれば、腋《わき》の下まで腕まくりするのがある。
 年増のごときは、
「さあ、水行水《みずぎょうずい》。」
 と言うが早いか、瓜の皮を剥《む》くように、
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