《へそ》まで寛《はだ》ける。
清水はひとり、松の翠《みどり》に、水晶の鎧《よろい》を揺据《ゆりす》える。
蝉時雨《せみしぐれ》が、ただ一つになって聞えて、清水の上に、ジーンと響く。
渠は心ゆくばかり城下を視《なが》めた。
遠近《おちこち》の樹立《こだち》も、森も、日盛《ひざかり》に煙のごとく、重《かさな》る屋根に山も低い。町はずれを、蒼空《あおぞら》へ突出た、青い薬研《やげん》の底かと見るのに、きらきらと眩《まばゆ》い水銀を湛えたのは湖の尖端《せんたん》である。
あのあたり、あの空……
と思うのに――雲はなくて、蓮田《はすだ》、水田《みずた》、畠を掛けて、むくむくと列を造る、あの雲の峰は、海から湧《わ》いて地平線上を押廻す。
冷《つめた》い酢の香が芬《ぷん》と立つと、瓜、李《すもも》の躍る底から、心太《ところてん》が三ツ四ツ、むくむくと泳ぎ出す。
清水は、人の知らぬ、こんな時、一層高く潔く、且つ湧き、且つ迸《ほとばし》るのであろう。
蒼蝿《ぎんばえ》がブーンと来た。
そこへ……
六
いかに、あの体《てい》では、蝶よりも蠅が集《たか》ろう……さし捨
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