《すて》のおいらん草など塵塚《ちりづか》へ運ぶ途中に似た、いろいろな湯具|蹴出《けだ》し。年増まじりにあくどく化粧《けわ》った少《わか》い女が六七人、汗まみれになって、ついそこへ、並木を来かかる。……
 年増分が先へ立ったが、いずれも日蔭を便《たよ》るので、捩《よじ》れた洗濯もののように、その濡れるほどの汗に、裾《すそ》も振《ふり》もよれよれになりながら、妙に一列に列を造った体《てい》は、率いるものがあって、一からげに、縄尻でも取っていそうで、浅間しいまであわれに見える。
 故あるかな、背後に迫って男が二人。一人の少《わか》い方は、洋傘《こうもり》を片手に、片手は、はたはたと扇子を使い使い来るが、扇子面に広告の描いてないのが可訝《おかし》いくらい、何のためか知らず、絞《しぼり》の扱帯《しごき》の背《せなか》に漢竹の節を詰めた、杖《ステッキ》だか、鞭《むち》だか、朱の総《ふさ》のついた奴《やつ》をすくりと刺している。
 年倍《としばい》なる兀頭《はげあたま》は、紐《ひも》のついた大《おおき》な蝦蟇口《がまぐち》を突込《つッこ》んだ、布袋腹《ほていばら》に、褌《ふどし》のあからさまな前はだけで、土地で売る雪を切った氷を、手拭《てぬぐい》にくるんで南瓜《とうなす》かぶりに、頤《あご》を締めて、やっぱり洋傘《こうもり》、この大爺《おおじじい》が殿《しっぱらい》で。
「あらッ、水がある……」
 と一人の女が金切声を揚げると、
「水がある!」
 と言うなりに、こめかみの処へ頭痛膏《ずつうこう》を貼《は》った顔を掉《ふ》って、年増が真先《まっさき》に飛込むと、たちまち、崩れたように列が乱れて、ばらばらと女連《おんなれん》が茶店へ駆寄る。
 ちょっと立どまって、大爺と口を利いた少《わか》いのが、続いて入りざまに、
「じゃあ、何だぜ、お前さん方――ここで一休みするかわりに、湊《みなと》じゃあ、どこにも寄らねえで、すぐに、汽船だよ、船だよ。」
 銀鎖を引張って、パチンと言わせて、
「出帆に、もう、そんなに間もねえからな。」
「おお、暑い、暑い。」
「ああ暑い。」
 もう飛ついて、茶碗やら柄杓《ひしゃく》やら。諸膚《もろはだ》を脱いだのもあれば、腋《わき》の下まで腕まくりするのがある。
 年増のごときは、
「さあ、水行水《みずぎょうずい》。」
 と言うが早いか、瓜の皮を剥《む》くように、
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